前田

高校生の頃、クラスに前田という男がいた。

彼はビートルズが好きだと公言していたんだけど、それは単に洋楽を聴いているアピールで、好きなアルバムは「『1』だね」といった深いんだか深くないんだかよくわからないポリシーを持っていた。

洋楽を聴いているアピールでビートルズとカーペンターズしか知らないといったファンからしたら失礼すぎる男だったけど、彼はなかなか面白かった。

そして周りの友達はそれなりに多く、流行のファッションは常におさえていた。

ちなみに当時付き合っていた彼女は「ゆず」が好きだった。

ある日の英語の授業の時に、クラスの男子の2/3くらいがボイコットして、近所にたむろして煙草を吸っていた。

その際に「先生が見回りにくるぞ」と慌てて散る際に、一瞬で全員が前田をオトリにして逃げた。案の定前田だけが生活指導の先生に捕まり、停学になった。

しかし彼はそれを「オイシイ」と思う得な性格で、失うものは大きかったけど(推薦とか)、彼の面白株はあがっていった。

ちなみにその時俺は真面目だったので教室で寝ていた。

そんな高校生活はそれなりに楽しかったんだけど、前田は学校はサボりまくっていたので「あと1日休んだら退学」といった状況になり、みんなが作った「退学カウントダウン表」を見ながらしぶとく登校してなんとか卒業をしたんだけど、一年間のフリーター時代を経て、何故か俺が通っていた美容専門学校に入ってきた。

学年でいうと俺の1つ下だったので、何も知らない周りの一年生からは、「なんかおしゃれな人」みたいなクラスメートで、彼は楽しげな学校生活を送っていた。

1つ上の学年の俺はそれが全く面白くなく、一年生に前田の本当の面白さを知ってもらいたい一心で前田をモヒカンにしたり(美容学校は坊主禁止だけどモヒカンはどうなのか職員室で審議されていた)、白衣の代わりに俺の革ジャンを着させたりしてた。

しかしそれが逆に彼をちょい悪男子に魅せてしまい、あろうことか新しい彼女まで作ってしまった。

俺はその子の前で前田をディスったり、高校の頃と同じように接していたら、「嫌な先輩」という印象があっという間に広がり、一年生からの株は暴落。

どうせなら面白い気さくな先輩になろうと思ってセットローションを全身にかぶったりしたんだけど、ただの頭のおかしい先輩に成り下がっていった。

結局前田はおしゃれな人、俺は気違いといった位置付けで終わった美容学校の青春をふと思い出しました。

ちなみに前田とは連絡をとっていません。

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